働き方改革 ~長時間労働是正に向けての取組み

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9月27日、第1回目の「働き方改革実現会議」が開かれました。主な論点として、同一労働同一賃金や非正規雇用の処遇改善など、全部で9項目のテーマが設定されており、今年度内に具体的な実行計画を取りまとめ、国会に関連法案を提出するとしています。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201609/27hatarakikata.html
中でも長時間労働の是正は、非常に重要な課題となっており、その実現が望まれます。

働き方改革はなぜ必要か

働き方改革が求められる背景には、少子高齢化による人口減少への危機感があります。人口が減少することにより、働き手が少なくなり、日本経済の維持・成長が困難になること、育児や介護に携わることにより時間的に制約を受ける「制約社員」の増加が見込まれることなどからも、女性や高齢者などを含めた多様な人材を活用することが必要となっています。

一方、働き手の方からも、働きやすい職場の条件として、[1]休暇の取りやすさ、[2]労働時間の適正さ、[3]メンタルヘルス不調者の少なさといった、労働時間に関連するものについて、「非常に重視する」との声が寄せられています。(2016年「人を活かす会社」調査:日本経済新聞社)

また、産業構造の転換により、ホワイトカラーが働き手の大半を占めるに至り、企業の指揮命令下で拘束的に就労する働き方ではなく、付加価値を生み出す知的創造的な働き方への転換が求められています。このような状況のもとでは、長時間労働を前提とした従来の働き方ではなく、効率よく仕事をして、家庭と仕事の両立を取りつつも、時間当たりの労働生産性を高めていくことが喫緊の課題となっています。

働き過ぎ防止のための国の対応

働き過ぎ防止のための取組みとして考えられているのが、監督の強化と労働時間についての法改正です。全国の労働局に「働き方改革推進本部」を、東京と大阪には「過重労働撲滅特別対策班」(通称かとく)が設置され、長時間労働に対する取締りを強化しています。

労働時間に関する法改正の内容としては、「中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の猶予廃止」、「年休取得が確実に進むよう、時季指定を使用者に義務付けること(指定日数は5日)」、「フレックスタイム制の清算期間の上限を1カ月から3カ月にすること」、「企画業務型裁量労働制の対象者の拡大」、「高度プロフェッショナル制度の創設(脱年功給)」などが予定されています。

しかし、これらの改正案の内容については、労使双方から疑問や注文が出され、いまだに成立を見ていません。

日本の労働時間法制度の特徴としては、[1]過労死等を防ぎうる労働時間の絶対的上限規制がないこと、[2]労働時間の規制システムが「36協定」に頼っていること、[3]長時間労働の抑制を割増賃金という間接的な規制手段に頼っていることなどが指摘されています。

[1]については、「告示」で時間外労働の限度時間は示されているものの、特別条項付きの協定を結べばその期間は事実上無制限な時間外労働が可能になること、[2]については、過半数代表者は使用者から提示を受けた時間外等の協定案を交渉・拒否できる力関係にあるかということ、[3]については働き手の方も時間外労働による割増賃金という金銭的誘因に対する期待もあることなどがその具体的な問題点です。

実は長時間労働となる原因の大きな要素は、日本の職場での働き方そのものにあります。日本型雇用の本質は、労使が「職務の定めのない雇用契約」を結んでいることです(メンバーシップ型契約)。職務、労働時間、勤務場所が無限定であれば、労働負荷は高まります。その意味からは、問題の根源は法規制ではなく、企業の雇用慣行にあるといえます。ここにどうメスを入れていくかが問われているわけですが、これは法改正によってのみ解決できるものではなく企業独自の取組みが求められている問題といえます。

働き方改革への取り組み方法

働き方を変えるには、もちろん個人の自助努力も必要ですが、働き方は周囲の影響を受けやすく、職場全体、さらには社会全体で取り組む必要があります。

働き方改革の目的は、単なる「労働時間の削減」ではなく、その創出した時間で「付加価値の最大化」(生産性の向上)を実現することにあります。従って、労働時間の削減は業務改革とセットで行うことが重要です。

ホワイトカラーの働き方を変えるには、以下の4点がポイントとなります。

[1]仕事の価値基準(経営者・従業員の意識)を変える

従来の「時間をかけても成果を挙げる」という発想から、「限られた時間で成果を出す」ように、長時間労働を是とする企業風土を改めることが必要です。

[2]組織のルールを変える

残業の事前届出・報告制の徹底、会議、移動、事務処理システムの見直し、強制退社の仕組み(ノー残業デー、強制消灯・施錠など)、ワークスタイルの変革(在宅勤務・テレワークなど)、年休取得促進デーの設定など制度面から「早く帰る仕組み」を考えます。

[3]業務を見直す

無駄・非効率な業務、当人がやるべきでない業務を見極め、新たな業務推進体制を構築します。具体的には、優先順位付けをしたうえでの業務遂行、過剰品質の解消、情報共有や仕事の見える化、業務の標準化などが考えられますが、ここで大事なことは、削る時間の優先順位を誤らないことです。削減は無駄な時間からはじめます。

[4]人事制度を見直す

生産性の高さを評価する仕組みに人事制度を見直します。評価項目としては、役割責任達成度、業績を生み出した過程、限られた時間の中での労働生産性、残業削減への取組み、管理職については部下の労働時間管理の実績も評価項目に盛り込みます。

働き方改革に効果を挙げている企業の事例は、厚生労働省が「働き方・休み方改善」ポータルサイトを開設し、公開しています。
http://work-holiday.mhlw.go.jp/index.html

働き方改革に効果を挙げている企業の特徴としては、以下のことが指摘できます。

  1. 経営トップが改革に積極的に関与し、自らの言葉でその必要性と取組みの意義
    を語っている
  2. 管理職が推進役となり、これまでとは違うマネジメントを行うことを理解して
    いること
  3. 現場の業務実態に合わせた施策を導入していること
  4. 丁寧な説明と継続的な推進・啓発活動を行っていること

すべての企業・組織に通用する絶対的な成果はありませんが、一部分でも参考になる事例があれば取り入れてみるところからはじめられてはいかがでしょうか。

参考文献・参考サイト

大内伸哉『労働時間制度改革』中央公論社(2015年)
広田薫「今度こそ!残業を減らす方法」人事マネジメント2014.3.
八代尚宏『日本的雇用慣行を打ち破れ』日本経済新聞出版社(2015年)
山本啓二「労働生産性の高め方~ホワイトカラーの働き方改革~」
人事マネジメント2015.12.
厚生労働省ホームページ

アイさぽーと通信<vol.63>掲載

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