今回のPOINT
・今月1日から労働契約法の特別措置法が施行されました。
・この特別措置法の対象者は、「高度の専門的知識を有する労働者」と「定年後再雇用された労働者」です。
・今回の特例の適用を受けるためには厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。
特別措置法成立の経緯
今からちょうど2年前の平成25年4月、有期雇用労働者の雇用の安定を図ることを目的として労働契約法が改正され、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えた場合に、労働者が事業主に申込みをすることにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールが設けられました。このルールでは、労働者が無期転換の申込みをした時点で、会社側の意思に関係なく、その申し込みを会社が承諾したものとみなされるため、特に有期雇用労働者を多く抱える業種・企業などでは、非常に影響の大きい改正内容となっています。
この改正法が施行された当初は、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託など職場での呼称にかかわらず、6か月間や1年間などの有期雇用労働者であれば、すべてこの無期転換ルールの対象となるという解釈がなされていました。
しかし、一口に有期労働契約といっても、その業務内容や主な労働者の属性、必要とされる知識やスキル及び各企業における活用方法は一様ではないため、1年後の平成26年4月になると、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間を5年ではなく10年とするという特例がさっそく設けられることとなりました。(「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」)ただ、この特例は大学や大学共同利用機関、あるいは研究開発法人に限られたため、一般企業には全く関係のないものでした。しかし一般企業においても、改正当初より、雇用の安定性が損なわれるおそれの少ない高度専門性を有する労働者を企業内において有効活用しようとする場合、その専門能力の維持向上や有効な発揮という観点からして、この無期転換ルールがそもそも馴染まないのではないかとの指摘がなされておりました。また、労働契約法改正と同時期に高年齢者雇用安定法が改正され、定年後の再雇用については、原則として希望者全員に対し65歳までの雇用を確保する措置を講じることが義務化されたこともあり、定年後に再雇用される労働者等にまで無期転換ルールの対象範囲を広げることは改正法の趣旨にそぐわないものではないか、あるいはこの無期転換ルールのために、かえって高齢者を5年を超えて雇いにくくなるのではないか、との疑念も実務サイドから数多く出されておりました。このような状況を踏まえた今回の特別措置法案は、第186回通常国会に提出されたものの、参議院での審議未了のまま会期末を迎え一旦は継続審議扱いとなりましたが、続く第187回臨時国会において再度審議され、まさに解散日当日であった昨年11月21日の衆議院本会議において滑り込みで可決・成立し、今月1日より施行されました。
特例の対象となる労働者の範囲と効果
今回の特例措置の対象となる労働者は以下の2つです。
1.5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務(以下「プロジェクト」)に就く専門的知識等を有する有期雇用労働者(以下「高度専門労働者」)
2.定年に達した後、引き続いて同一の事業主(グループ企業含む。以下同じ)に雇用される有期雇用労働者(以下「定年再雇用労働者」)
1.に該当する場合、労働契約法に定めた無期転換への申込権発生までの5年の期間が、プロジェクトの開始の日から完了の日までの期間(但し、上限10年)に延長されます。例えば、8年間のプロジェクトに、1年間の有期雇用労働者として参加し、契約を更新して通算5年を経過したとしても、そのプロジェクトの期間中は、無期転換申込権は発生しないことになります。(なお、高度専門労働者の基準として、年収要件は1075万円以上、高度の専門的知識の範囲は、博士の学位を有する者や公認会計士や医師、弁護士、社会保険労務士、税理士、一定の実務経験を有するシステムエンジニア等、厚生労働省令等で定められています。)
また、2.に該当する場合は、定年後引き続いて同一の事業主に雇用されている期間は、無期転換への申込権は発生しません。例えば、60歳で定年後、同一の事業主と1年間の有期労働契約を結んで再雇用され、その後契約更新を繰り返し、65歳(通算5年)を超えて雇用されている状態となったとしても、その事業主に雇用されている期間中は、無期転換申込権は発生しないということです。
より多くの会社に該当すると思われるのが2.の場合であると思われますが、ここで注意すべきは、2.は単なる高齢者の有期労働契約の特例ではないということです。つまり2.については、あくまで「定年」後に引き続いて「同一の事業主」に雇用される場合にのみ該当するということです。例えば、もともと有期雇用労働者として新規雇用された58歳の者が、契約更新を繰り返して63歳(通算5年)を超えた場合とか、定年後に転職して別の事業主に有期雇用された場合については、特例の対象とはならず、原則通り、通算の契約期間が5年を超えれば無期転換申込権が発生することになります。
特例を受けるための手続き
今回の特例は、上記1.2.に該当する場合に自動的に適用されるのではなく、
各社において適切な雇用管理に関する事項についての計画を作成し、厚生労働大臣
の認定を受ける必要があります。この認定よって初めて特例の適用が可能となるわ
けです。
手順としては、以下の(1)~(4)の流れとなります。
(1)特例の対象労働者に関して、能力が有効に発揮されるような雇用管理に関する措置についての計画を作成
(2)作成した計画を本社・本店を管轄する都道府県労働局に提出(認定申請書の申請)
(3)都道府県労働局において申請された計画内容をチェックし認定
(4)特例の対象労働者について無期転換ルールに関する特例が適用
提出する申請書には、1.の高度専門労働者については、労働者が自らの能力の維持向上を図る機会の付与等、2.の定年再雇用労働者については、労働者に対する配置、職務及び職場環境に関する配慮その他特性に応じた雇用管理に関する措置等を記載することが必要です。(但し、書式自体は1枚もので該当項目にチェックする方式の比較的簡易なフォーマットになっております。すでに厚生労働省のHPにアップされておりますので、そちらも参考にしてください。)
また、手続の際の留意点としては以下の通りです。
・申請書は1.の高度専門労働者についてはプロジェクトごとに提出する必要がありますが、2.の定年再雇用労働者については1社につき1枚の計画書を提出すれば良いことになります。
・申請書は本社・本店を管轄する労働基準監督署を経由して提出することもできます。
・申請書は、原本と写しの合計2部を提出する必要があります。
・認定を受けた場合、過去の一定期間についても特例が適用されます。(ただし、もともとの改正労働契約法の通算契約期間の算定対象が平成25年4月1日に開始する有期労働契約に限られることから、特例における通算契約期間の算定対象も平成25年4月1日以降に限られます。また、認定を受けた時点ですでに無期転換の申込を行っている労働者については今回の特例措置の対象とはなりません。)
繰り返しになりますが、今回の特例措置は、認定を受ければプロジェクトの開始や定年時期が認定日以前であっても遡及適用されますので、あまり慌てて認定申請を行う必要はないかもしれませんが、この申請を失念したままですと、特例措置を受けることはできませんので、忘れずに認定を受けておくようにしてください。
参考文献
・厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp
アイさぽーと通信<vol.57>