中小企業における『健康経営』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「健康経営」とは?

「健康経営」とは、「従業員の心身の健康を企業の競争力の源泉と捉え、企業として戦略的かつ積極的に従業員の健康増進に取り組むこと」です。従業員の健康については、従来は個人や健康保険組合のみが取り組む問題とされてきましたが、「経営戦略の一環として取り組む」というところに特徴があります。

従業員の健康増進に対する取り組みを「投資」と考え、その結果として、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、業績や企業価値の向上が期待できるとの考えが基となっています。また、さらに大きく長い目で見た場合、国民QOL(生活の質)の向上や、ひいては国民医療費低減など、社会課題の解決に貢献するものであるとも考えられています。

証券市場における「健康経営銘柄」

経済産業省は、「日本再興戦略」による取り組みの一環として、東京証券取引所で「健康経営銘柄」を平成26年度から選定しています。東京証券取引所の上場会社の中から、健康経営の取り組みに優れた企業を、業種区分毎に(1業種1社)選定するもので、第2回目となる本年度は25社が選定されました。長期的な視点からの企業価値向上を重視する投資家に対して、この銘柄企業を魅力ある企業として紹介することになり、上場企業に対して「健康経営」の取り組みを促進することを目的としています。

具体的には、経済産業省が実施した「平成27年度 健康経営度調査」の回答結果を、(1)「経営理念・方針」(2)「組織・体制」(3)「制度・施策実行」(4)「評価・改善」(5)「法令遵守・リスクマネジメント」という区分から評価した上で、財務面でのパフォーマンス等を勘案して下記の基準で選定されています。

1.「健康経営度調査」の総合評価の順位が上位 20%以内であること
2.過去3年間の ROE の平均値が業種平均又は 8%以上であること
※ その他:重大な法令違反等がないこと

「健康経営」が注目される背景

近年、社員の健康を重視する企業が増加している背景としては、次のものがあげられます。

  1. 減少する労働力人口:少子高齢化に伴う社員の平均年齢の上昇や人材採用面の問題を背景として、長時間労働を前提とした働き方から時間当たりの生産性を高める働き方へ、企業や個人の価値観が変化せざるを得ない状況があること。
  2. 増加・深刻化するメンタルヘルス不全や生活習慣病:欠勤や休職に伴う労働損失に加え、出勤したとしても健康不調により生産性が低下してしまうという潜在的なコストが存在すること。心身の健康状態と仕事の生産性の因果関係が、様々な研究事例により明らかになってきたこと。
  3. 労働環境改善に向けた国の施策が強化:前2項目の背景に加え、日本再興戦略や、ニッポン一億総活躍プランにおいて「働き方改革」が示され、「ストレスチェック制度」や、違法な長時間労働を繰り返している企業名が実際に公表されるなど、心身の不調につながることが懸念される長時間労働への監視も強化されていること。

中小企業における「健康経営」

中小企業には実態として改善の余地が少なからず存在していることもあり、社員一人ひとりの存在が大きい中小企業こそ健康経営を進める意義や効果は高いといえます。

では、具体的にはどのように「健康経営」を捉えていけばよいのでしょうか。日本公庫総研レポートによると、中小企業が健康経営に取り組むにあたっては、何か特別なことを実施せねばならないと構える必要はなく、(1)決して複雑な考え方ではなく、(2)必ずしも資金を必要とせず、(3)経営者の関与(トップダウン)が不可欠という3つの認識のもと、小さな変革を着実に積み重ねていくという意識を持つことが重要とされています。

また、中小企業の健康経営に対する取り組みフローとして、次の7つのステップを着実に繰り返していくことが企業風土の改善を促し、従業員の実感につながるとしています。

ステップ1:健康経営の重要性に対する経営者の深い理解
ステップ2:経営者自ら、強いメッセージを社内に発信する
ステップ3:まずは、法令で義務付けられた従業員の健康管理を徹底する
ステップ4:従業員との積極的なコミュニケーションや協会けんぽ等との連携によ
り、自社の従業員の健康状態を把握する
ステップ5:自社における職場環境やコミュニケーション環境の問題点を洗い出す
(この際、必ず従業員の意見を取り入れる)
ステップ6:洗い出された自社の問題点を解決に導くプラスアルファの取り組みを考案・実施する
ステップ7:実施した取り組みの効果を検証し、フィードバックする(協会けんぽのデータ等を利用する)

中小企業の取り組み事例を2つご紹介します。(日経新聞より)

  1. モバイルサービスのY社(東京)。毎月末、約100人の社員・契約社員に野菜を支給。2年前から青果店と契約して毎月3種類のセット商品から選べる。コンビニのおにぎりなどで食事をすませる若手社員が多いのを心配して現物支給。現金に換算して500~600円ほど。「タンパク質取り放題制度」として社内にチーズと卵の食べ放題コーナーもある。取り組みにより、インフルエンザで休む社員がほとんどなくなった。
  2. 自動車中古部品販売N社(鳥取)。30人の社員は出社すると「良好」「やや不調」「不調」の中から選んで体調申告ボードの自分の欄にマークを貼る。自然に全社で共有。周りの社員はできる範囲で仕事を肩代わりしたり、早退も勧める。導入後にミスや事故が半分以上減った。

健康経営優良企業の認定ほか

経済産業省は本年度から社員の健康増進に取り組む中小企業を対象に「健康経営優良企業」の認定制度を始めます。健康経営に取り組む宣言をした約1万社を対象に、健康診断の受診率などの数値のほか、特に成果を上げている中小企業を500社程度認定し、低金利融資等を可能とする予定です。

同省による健康経営ガイドブックがすでに発行されており、今後は健康経営アドバイザー派遣により中小企業の健康経営の後押しをする予定です。

全国の中小企業数は約380万社で従業員数は全体の約7割。各社における小さな変革が積み重なったときには、日本の労働環境に大きな変革をもらたすに違いありません。

参考文献・参考サイト

企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課)
日本健康会議提出資料(健康経営500社、健康宣言1万社の登録について)
中小企業の健康経営(日本公庫総研レポート)(日本政策金融公庫総合研究所)
健康経営銘柄2016~選定企業紹介レポート~
「おせっかい」で健康経営 アイデア競う中小企業(日経新聞)
日本健康会議ポータルサイト
HHH(スリーエイチ)の会
一般社団法人「人と組織の活性化研究会」(APO研)

アイさぽーと通信<vol.62>掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。