ストレスチェック制度の概要と導入への対応

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労働安全衛生法が改正され、2015年12月1日より、「ストレスチェック制度」が義務化されます。法改正後、厚生労働省から、ストレスチェック制度に関する省令、指針(「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並び
に面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)、Q&A、実施マニュアルなども公表され、その概要が明らかになってきました。制度導入にあたって企業に求められる対応について考えます。
(ご参考:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000082587.html

ストレスチェック制度の目的

厚生労働省「平成24年労働者健康状況調査」によれば、「現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者の割合は60.9%でした。職業生活で強いストレスを感じている
労働者の割合が高い状況で推移していることがうかがえます。
ストレスチェック制度は、ストレスからメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(「一次予防」)を強化するために、定期的に労働者のストレスの状況を検査し、結果を通知することで本人のストレスへの気づきを促し、さらに、検査結果を分析することによりストレスの原因となる職場環境の改善につなげることを目的としています。

ストレスチェック制度の概要

制度の概要は以下のとおりです。
(1)常時使用する労働者に対して、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが事業主の義務となります。(ただし、労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務)
(2)検査結果は、検査を実施した医師、保健師等から直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に提供することは禁止されます。
(3)検査の結果、一定の要件に該当する労働者から申出があった場合、医師による面接指導を実施することが事業者の義務となります。また、申出を理由とする不利益な取扱いは禁止されます。
(4)面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ就業上の措置を講じることが事業者の義務になります。

厚生労働省は、ストレスチェック制度の流れをホームページで紹介しています。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/kouhousanpo/summary/#p02

実施にあたっての具体的な内容としては、以下のことが決まっています。

(1)対象労働者

ストレスチェックの対象労働者は、「常時使用する労働者」です。(有期契約の労働者であっても、1年以上引き続き使用されている者で、かつ1週間の所定労働時間数が通常の労働者の4分の3以上であれば実施対象者となります。)

(2)検査内容

「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」「当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」が含まれているものとなっていますが、「職業性ストレス簡易調査票」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/kouhousanpo/summary/pdf/stress_sheet.pdf
を用いることが望ましいとしています。

(3)実施頻度

ストレスチェックは、1年以内ごとに1回実施することになります。

(4)実施者と実施事務従事者

実施者は、医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を終了した看護師もしくは精神保健福祉士ですが、マニュアルでは事業所で選任されている産業医が適任であるとしています。また、個人の調査票のデータ入力等の実施の事務に
あたる実施事務従事者には、解雇、昇進または異動に関して直接の権限を持つ人は従事できません。

(5)結果の通知

ストレスチェックの結果は、本人の同意なしに事業者に提供してはなりませんが、その同意は、検査の実施後に取らなければなりません。

(6)結果の記録・保管

ストレスチェックの結果については、本人が同意し事業者に提供されたものについては、事業者が5年間保存する義務があります。本人が同意せず実施者が保有するものについては、実施者が5年間保存することが望ましいとされています。
その他、面接指導の実施段階や集団ごとの集計・分析業務(努力義務)についても、詳細が決まりつつありますが、詳しくは厚生労働省のストレスチェック制度説明用資料をご参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150422-1.pdf

導入に向けての対応

ストレスチェック制度導入にあたって、指針では準備段階で以下の対応を求めています。

(1)基本方針の表明

事業者は、ストレスチェックを円滑に実施する体制の整備並びに個人情報保護等を含めた対応について労働者に十分な説明をする必要がある。

(2)調査審議と規程整備

衛生委員会においてストレスチェック制度の実施方法等について調査審議を行い、その結果を踏まえ、事業者がその事業場におけるストレスチェック制度の実施方法等を規程として定め労働者に周知する。

(3)ストレスチェック制度の実施体制の整備

実施にあたっての、計画策定、産業医等の実施者または委託先の外部機関との連絡調整および実施計画に基づく実施の管理等の実務担当者の指名等実施体制を整備することが望ましい。当該実務担当者には、衛生管理者または事業場内メンタルヘルス推進担当者を指名することが望ましい。

(2)の「規程整備」については、就業規則にストレスチェック制度に関する規定を盛り込む変更を行う必要があるが、気になるところですが、ここでいう規程は、ストレスチェックの実施細則的なものであることから、就業規則の変更までは必要がないとする解釈が示されています。(増田陳彦「「ストレスチェック制度」義務化に伴う現場の対応実務」)
(3)の実施体制としては、[1]ストレスチェック制度の実施責任方針の決定を行う「事業者」、[2]ストレスチェック制度の実施計画の策定実施の管理を行う「ストレスチェック制度担当者」(衛生推進者、事業場内メンタルヘルス推進担当者等)、[3]ストレスチェックの実施、面接指導、実施者の補助を行う「実施者」(産業医等)「実施事務従事者」(産業保健スタッフ、事務職員等)の3つの役割(人員)を考えておかなければならないことになります。

ストレスチェックは、今年の12月から1年以内に実施をする必要があります。まだ少し時間があるようですが、指針が求める内容をみると、そろそろ準備を始めてもいいころかと思います。
また、今回の改正では、ストレスチェック制度の導入は50名未満の事業場は努力義務とされていますが、制度の趣旨からはすべての労働者が受検することが望ましいものです。50名未満の事業場が、合同でストレスチェックを行い、合同で選任した産業医にストレスチェック後の面接指導等の産業医活動の提供を受けた場合に、費用の一部の助成を受けられる、「「ストレスチェック」実施促進のための助成金」も設けられました。
https://www.rofuku.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1005/Default.aspx
従業員の心の健康対策を、企業戦略の一環として考えて見られてはいかがでしょうか。

参考文献

増田陳彦「「ストレスチェック制度」義務化に伴う現場の対応実務」(ビジネスガイド2015.7.)
涌井美和子「改正労働安全衛生法~「ストレスチェック制度」の論点」(SR37号2015)
厚生労働省ホームページ「こころの耳」ほか

アイさぽーと通信<vol.58>掲載

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